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和歌山地方裁判所 昭和48年(わ)359号 判決

被告人 権日明 外二名

主文

被告人権日明を懲役一年に

同 金春錫を懲役五月に

同 高昌乗を懲役六月に各処する。

未決勾留日数中三日を被告人金春錫の右刑に算入する。

被告人権日明、同高昌乗に対しいずれも本裁判確定の日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。

押収してある脇差(押収品目名日本刀、以下同じ)の白鞘一本(昭和四八年押第一一三号の一)、脇差一振同押号の二)、脇差(鞘なし)一振(同押号の三)、拳銃一丁(同押号の四)、弾丸(実包)三発(同押号の五)を被告人三名から没収する。

訴訟費用は被告人三名連帯の負担とする。

被告人三名に対する昭和四八年八月二九日付起訴状の公訴事実第三について被告人三名は無罪。

理由

(罪となる事実)

被告人権日明は、大阪市住吉区内に事務所をもつ酒梅組系谷政組傘下の辻岡組(組長辻岡義光)の幹部(舎弟)であり、被告人金春錫、同高昌乗は、いずれも権日明輩下の辻岡組々員である。

ところで、和歌山県伊都郡かつらぎ町に住む辻岡組若頭補佐沢田治が同郡高野口町での賭博や競輪ノミ屋の縄張りに関連し高野口町の大日本平和会系今城組(会長今城光男)の今城守らと争いを生じ、この争いに今城らを後援する和歌山市内の紀州会(会長中野昭吉)の組員も介入し、昭和四八年八月一四日夜折柄今城らの賭博場の警備のため高野口町に出向いていた紀州会組員と沢田とが電話で玉(生命)をとるとかの言葉も出るほどの激しい口論を交し、紀州会組員から深夜大阪市の辻岡組事務所に電話で抗議がなされ、翌一五日午前中辻岡組若頭山本暁が、沢田を事務所に呼んで事情を聴取した後和歌山市の紀州会事務所に架電し、紀州会幹部(会長の実子分で、実子会副会長)中野二郎こと直川敏雄と話し、結局双方の幹部三名づつが出て同日午後三時に高野口町内の「一番」というパチンコ店前で会談することを合意したが、被告人権は前夜来辻岡組事務所に詰めていて右電話の際も居合わせ、山本から右会談合意を聞き、かつ山本の求めで右会談の場に同行することとなった。

第一、被告人権は、右の後一旦身仕度のため大阪市生野区巽北三丁目九番九号の当時の自宅に戻ったが、沢田から紀州会組員の多くが覚せい剤を扱い質が良くないと聞いたこともあって、話し合のつもりの会談が決裂し、抗争に発展するかも知れないと危惧し、そのような事態の発生に備え、万一相手から攻撃されたときにはこれを迎撃し、相手方の紀州会組員の生命身体に対し共同して害を加える目的をもって、同日午後〇時三〇分ごろ右自宅前に停車させていた普通自動車(クラウン)内に刃渡り約三六センチメートルの脇差二振(昭和四八年押第一一三号の一、二、三)、拳銃実包三発(同押号の五)を装填した改造回転式拳銃一丁(同押号の四)を積み込んで準備したうえ、同所で右兇器準備を知っている輩下の金春錫、高昌乗を乗車させ高昌乗に運転させて出発し、同人らを同行し、間もなく同市住吉区長居公園付近に住む前記山本暁を同公園付近で同乗させ、そのころ進行中の車内において山本にも兇器準備を打ち明け、金、高に兇器準備を必要とする経過目的を説明し、それぞれの了承を得て高野口町に向かい、もって兇器を準備して人を集合せしめ

第二、被告人金、同高は、山本暁とともに右第一記載の日時場所において前同様に紀州会組員の生命身体に対し共同して害を加える目的で権日明が前記兇器を準備していることを知って集合し

第三、被告人権、同金、同高は、共謀のうえ、前記第一、第二の日時に引き続いた同日午後三時ころ高野口町名古曽九四〇番地の一ボーリング場ボールエイト北側の国道二四号北側路側土手付近において被告人権、同高がそれぞれ(イ)前記脇差一振づつを、被告人金が(ハ)火薬類である前記拳銃実包三発を装填した(ロ)前記改造回転式拳銃一丁を各所持し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人金春錫の累犯前科)

被告人金春錫は、昭和四五年一月一三日大阪地方裁判所で窃盗、同未遂により懲役一年六月以上三年以下に処せられ、昭和四七年九月一四日右刑の執行を受け終ったものである。

右事実は、同被告人の前科調書により認める。

(法令の適用)

被告人権の判示第一の所為について

刑法二〇八条の二、二項

被告人金、同高の判示第二の所為について

刑法二〇八条の二、一項、罰金等臨時措置法三条

被告人三名の判示第三の(イ)脇差二振の不法所持について

銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三、一号、三条一項、刑法六〇条(包括一罪)

同じく(ロ)拳銃一丁の不法所持について

銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二、一号、三条一項、刑法六〇条

同じく(ハ)実包三発の不法所持について

火薬類取締法五九条二号、二一条、刑法六〇条(包括一罪)

被告人権に対する判示第一、第三の各罪の、被告人金、同高に対する判示第二、第三の各罪の観念的競合の措置

刑法五四条一項前段、一〇条(被告人権につき、刑の最も重い判示第三、(ロ)の罪の懲役刑で、他の被告人につき同じ判示第三、(ロ)の罪で各処断、後者の被告人につき懲役選択)

被告人金に対する再犯加重

刑法五六条一項、五七条

被告人金に対する未決勾留日数の算入

刑法二一条

被告人権、同高に対する刑の執行猶予

刑法二五条一項

被告人三名に対する主文四項の各物件の没収(判示第三の罪の各組成物件)

刑法一九条一項一号、二項

訴訟費用の連帯負担

刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条

(一部無罪の理由)

一、被告人三名に対する昭和四八年八月二九日付起訴状の公訴事実第三は

「被告人三名は昭和四八年八月一五日午後三時ころ和歌山県伊都町高野口町名古曽九四〇番地の一、ボーリング場ボールエイトノ北側、国道二四号北側路側土手において紀州会組員中野二郎こと直川敏雄ほか数名が日本刀で辻岡組若頭山本暁らに切りつけようとしたことから報復を企て、共謀のうえ右直川敏雄ほか数名に対しそれぞれ所携の脇差二本(昭和四八年押第一一三号の二、三)の抜身と改造回転式拳銃一丁(同押号の四)の兇器を示すとともに数人共同し、同人らの生命身体に危害を加えるべき勢威を示して脅迫したものである。」

というにある。

二、右公訴事実(但し、報復を企てたとの動機については除く)は、前掲有罪の証拠を総合し、優にこれを認めることができ、この事実が暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二二二条に該当することは明らかである。

ところで、弁護人は、被告人三名の右脅迫行為は、被告人らの仲間である山本暁に対し加えられていた急迫不正の侵害に対し山本の生命身体を防衛するため巳むことを得ずになした行為であるから、刑法三六条一項に該当し罪とならないものであると主張し、検察官は、これに対し、被告人三名が右の山本暁と共に大阪市から、紀州会組員との抗争を予想し、兇器を持参して反撃の準備をし、紀州会の攻撃を受けて反撃に転じ右脅迫に至ったのであるから、これを全体的に観察するならば、喧嘩斗争における一過程に過ぎず、正当防衛に当らないと解すべきであると主張する。検察官の右主張は、正当防衛の要件のうち、紀州会組員の攻撃が予想されていたから「急迫性」を欠き、単に反撃に転じた行動であるから「防衛の意思」を欠き、しかも事態を全体的にみて、被告人らが兇器準備結集集合等の違法状態にあり、いわゆる喧嘩斗争状態にあったから、不正対不正の行動として違法性阻却(正当化)事由とならないとの主張に理解することができる。

三、前掲各証拠によると、右脅迫行為に至った経緯について次の事実を認めることができる。すなわち、

(一)  被告人三名および山本暁は昭和四八年八月一五日前記罪となる事実欄記載の経過で、前記兇器を後部トランクに積載した乗用自動車に乗り大阪市から和歌山県下高野口町に来り、同日午後三時少し前ころ同町名古曽九四〇番地の一ボーリング場ボールエイトの地下駐車場に同自動車を止めた。被告人権は、同駐車場で、前記兇器をトランクから車内座席に移動させたものの、被告人金、同高に対し「話し合が済まず紀州会組員がかかって来たら、この道具をもってつゝかかれ、相手が喧嘩に出て来るまでこゝで待っていよ」と指示し、兇器や自動車とともに両名を右駐車場に残した。当時の服装は、被告人権が白色のポロシャツ、土色のズボン、ゴルフ帽子、普通の皮短靴を、山本暁が白っぽいシャツ、赤点々ねずみ色ズボン、雨靴を、被告人高が紺色トレパン、ランニングシャツを、被告人金が灰色の濃い背広上下、スポーツシャツを各着用して、格別武斗に備えたものでなかった。被告人権と山本は、まず話し合いをするつもりでいたので、まさか直ちに相手と喧嘩抗争になると思わず、兇器その他喧嘩道具を全く身につけず、素手のまま、しかも二人のみで会談予定地のパチンコ店「一番」前道路に徒歩で向った。被告人権と山本は、前記ボーリング場北西の交差点から国道二四号南側歩道に出て同道路沿いに約三〇〇メートル西進し、国鉄高野口駅前道路と同国道の交差する交差点で国道を横断し、同日午後三時ころ同交差点北西隅のパチンコ店「一番」の東側道路(駅前からの道路)で、待っていた紀州会組員と対面した。

(二)  紀州会幹部直川敏雄は、前夜来の経過で、辻岡組の沢田が紀州会をつぶすつもりでいると受け取り、辻岡組に強い敵がい心を抱き、これより前、和歌山市の事務所で辻岡組若頭山本暁との前記の電話により高野口町での会談を合意したあと、同組幹部で前夜来同様の敵がい心をもつ岩本勝行に連絡しかつ同組員梶田俊二郎、西川昭夫、高田みのること上者道雄を集め、自ら日本刀を持ち、木刀三本や登山ナイフ一丁の兇器も準備し、自動車二台に分乗し和歌山市を出発し、同日午後二時ころ高野口町に到着し、前記パチンコ店「一番」前から北方(高野口駅寄り)五〇メートル位の、高野口町名倉九五番地紀陽銀行高野口支店付近に自動車を駐車させ、景気づけに飲酒して予定時刻を待ち、交々辻岡組員を直ちにやっつける気勢をあげ、午後三時ころパチンコ店「一番」の東側道路に出向いた。このとき直川ひとりが背中に日本刀を差して持ち、他の兇器は自動車内に置いたままであった。

(三)  被告人権と山本暁は、一見して直川ら五名を相手の紀州会組員と察知し、相手もそれを知って、互に近寄り二、三メートルの間隔で対峙し、まず山本が「こんにちは、わし辻岡の山本という者や」と声をかけるや、予定した三名より多い紀州会組員五名が「きのう電話で言い合いしたのはどいつや」、「こら、おんどれらどっちや、こら」などと怒鳴りつつ取り囲もうとし、そのうちの直川が「わし二代目紀州会の実子分で実子会の副会長をしている中野二郎です……」と言いながら中腰となっていわゆる仁義の姿勢をしたとき、その背中に日本刀を差していることを認め、被告人権と山本は、いずれも、相手の態度等から、相手が最初から喧嘩のつもりで来ているものと考え、このままでは一方的にやられてしまうと心配し、互に同じ思いで顔を見合わせ、逃げる合図をし、直川の仁義の終らないうちにいきなり体を逆転し、その場から元来た方向に向け、前記国道を駈け出した。すると、直川らは、山本らがいきなり逃げ出したことに立腹すると同時に、そのことで勢いづき口々に「こら、待たんかい、おのれらやってしもちゃろか」、「待たんかい」、「おのれらそれでも極道かやってしもたる」などと言いつつ直ちに追跡を開始し、直川が背中から鞘ごと前記日本刀を取り出し、これを掲げつつ他の者は特に兇器をもたずに追いかけた(目撃者垣内喜美子や上者道雄は、梶田か他の者が成人頭大ほどの石を持って追跡したように述べているが、梶田以外に大きい石を持ち続けた者のいた証拠はなく、梶田は国防色の作業服をまるめて持っていたというのであり、上者の供述でも何時国道上の何処でそのような大きい石を拾ったのか不明であり、遠くから目撃した垣内の供述を他の証拠と対照すると後記の被告人らの脅迫を受けた後西方に引揚走行する時期に大きい石を持っていたということになり、梶田の弁解に徴し、右両名の供述は、そのまま採用できない。)。被告人権は、途中で走り難い皮短靴を抜ぎ捨て靴下のまま走り、前記ボーリング場北西の交差点で右(南)に折れ、被告人金、同高の待つボーリング場地下駐車場にたどりついた。山本暁は、被告人権よりやや遅れ更に途中つまずいて転倒し、すぐ後に直川に追いつかれ、交通の激しい同国道を横断できず、前記ボーリング場地下駐車場の方に曲がる余裕もなしに、ボーリング場北側国道の北側の路側土手上から下に向け転げ落ちた。紀州会組員らは、先頭に直川、次いで上者、西川、梶田が追い(岩本は途中で、第三者の車に便乗したが交通渋滞で遅れる)、上者は、途中で石を拾って山本らに向けて投げ、直川はボーリング場北西の交差点付近で鞘を払って抜き身の日本刀を右手に振り上げて山本を追いかけ、山本の転落した路側土手をくだり、山本の背後からいきなり両手で日本刀を振り降ろし、山本の臀部を三〇センチほど切り、同人に対し約二ヶ月間の入院加療を要する左臀部大腿部切創(大腿骨に達する)、左大腿骨大転子剥離の傷害を負わせ、山本を右負傷のため逃げ去ることもできない状態になし、更にその背後から日本刀を両手で振りかぶって山本により以上の被害を加えを態勢にあった。

(四)  被告人権は、前記ボーリング場地下駐車場に駈け込み、被告人高および金に対し「大変じゃ、奴らが日本刀をかかえて追いかけて来やがった、お前らも道具を持て、山本がやられるかも判らん、早いとこ車を出せ」と言い、自動車内に飛び乗るや、被告人高が運転して直ちに発車させ、ボーリング場の東側通路から国道南側端に出たが、国道の交通が激しいため国道を横断できずに停車した。丁度そのころ、前記のとおり山本が直川に追跡されて路側土手に転落する事態にあったので、被告人権、同高はそれぞれ刃渡り三六センチの脇差一振づつを、被告人金は、拳銃実包三発を装填した改造回転式拳銃を持ち、自動車から出て「こら―」と大声をあげながら国道を渡り、前記北側路側土手上に走り寄り、山本に対し一太刀浴せて更に刀を振り上げている直川やその近くに居合わせた紀州会組員らに対し交々日本刀を振りかざしたり、被告人金において直川らの方向に向けて二回ほど拳銃の引金を引く(但し、不発に終る)など、数メートル離れている直川ら紀州会組員に対し共同しかつ兇器を示してその生命身体に危害を加えるべき勢威を示して脅迫し、その結果直川らが畏怖し山本に危害を加えるのを中止し、その場から西方に引き揚げるに至った。

四、以上の事実に照らし、正当防衛の要件について検討するに、

(一)急迫性について

直川ら紀州会組員の被告人権および山本暁に対する追跡や傷害が不正の侵害であることは明らかである。被告人らの本件脅迫のなされた時点において、被告人権に対する侵害は同被告人の逃避によりすでに終了していたが、山本に対する侵害は、なお継続していたと見ることができる。すなわち、山本に対する法益侵害は、パチンコ店「一番」前から開始し、山本のひたすらな無抵抗の逃避にもかかわらず執拗に続けられ、益々過激となり、遂にその臀部を背後から日本刀で切りつける身体侵害に至り、そのまま放置するときにはその生命にも危険の迫るべき状態に陥っていたと認められる。従って、被告人らの本件脅迫の時点で、山本に対する生命身体侵害の危険は緊迫しており、これを排除するためには何らかの反撃的な防衛行為の必要な事態が現在したと認められる。尤も、被告人らと山本は、あらかじめ紀州会組員らの攻撃を予想したからこそ、大阪から兇器を準備し四名が集合し被告人権の指示でボーリング場地下駐車場に兇器と共に被告人高、同金が待機していたのである。従って、紀州会組員の攻撃は被告人らの予想したところでなかったのかの疑問が生ずる。しかし、被告人権および山本は、前記のとおりまずは武力によらない交渉のなされることを予測し、約三〇〇メートル離れた会談予定地に素手のまま、予定の三名より少い二人だけで赴き、その後会談予定地ではじめて相手方の日本刀携行などを知り、予測に反した事態に直面して直ちに逃げ帰ったのである。被告人らの兇器準備等は、交渉決裂後の斗争を予測したものであり、紀州会組員の攻撃が被告人らの予測や準備を遙かに越えた迅速かつ粗暴な勢いでなされたことが認められる。被告人らは、相手方による攻撃についてかなり楽観的な予測をしていた訳であるが、被告人らのそのような常識的な予測が結果として誤算であったとしても、少くとも山本の前記緊急の状態が被告人らの予測しなかった事態であることは認めるほかはない。従って、本件において直川らの攻撃が被告人らおよび山本にとって急迫不正の侵害であると認めるのが相当である。

(二)  防衛の意思について

前記認定の事実からすると、客観的には、被告人ら三名の日本刀拳銃を示しての脅迫があったため直川らの山本攻撃が中止され、山本のそれ以上の被害が阻止されたことが認められる。しかも、被告人らの行動は、単なる威迫的心理的な行動たる脅迫に止まり、物理的力の行使にまでは行っていない。それは典型的な防衛的行動と認められる(検察官も拳銃発射行為が殺人傷害の故意を伴ったと主張していない)。被告人らが被告人権らに対する侵害に対し反撃を加え、自己所属集団の威勢を示す意図動機をも伴っていたと認める余地がないではないが、前記緊急事態に照らすと、それは付随的な事情であって、主に山本の危難を防衛除去する目的での本能的反射的な行動に出たものと認めるのが相当である。このように、被告人らの本件脅迫は山本の法益を防衛する意思のもとになされたと認めるべきであるが、さらに、右認定の緊迫した事情のもとにおいて、自分らの親しい仲間である山本の法益を防衛するため他に取り得る適切な手段も見出し得なかったと認められるから、本件脅迫行為は、巳むことを得ざるに出た行動であると解される。

(三)  被告人らの行動全体との関連について

被告人らがいわゆる暴力団構成員であり、他の暴力団構成員との衝突を予測して、大阪から所持の禁ぜられている拳銃刀剣火薬類を所持携行し、兇器準備結集集合の罪を犯していた違法状態にあったのであるが、このことの故に直ちにこれらの者のすべての行動を違法視できないのは当然である。けだし、兇器準備結集集合、銃砲刀剣火薬類不法所持の違法性は、抽象的危険性を本質とすると解されるが、その危険を現実化した本件脅迫の個別的実質的違法性まで根拠づけるとは解しがたいからである。しかも、被告人らが自己所属集団を挙げて紀州会に敵対しようとしていたとか、いわば宣戦布告をした如き、集団対集団の違法な対立抗争の状態に陥っていたとかの事実は全く認められない。かえって、前認定の事実によると、被告人らは、ともかくも相手方との平和裡の交渉を直接の目的として来場したのであり、兇器の準備はその経過に照らし予備的条件的防衛的なものであったと認めるほかない。そして、被告人らの本件脅迫は、数メートル離れた相手に対し、場所を動かずかつ瞬間的といえる程の短時間に兇器を示すなどの防衛的で単純な方法により勢威を示したものに過ぎず防衛の目的の範囲においてもかなり自己抑制的行動であったと評しうる。その他前認定の諸事実を総合して評価するに、被告人らの兇器準備結集集合、銃砲刀剣火薬類所持の違法性が払拭できないのは当然である(なお、判示第三の時場所での刀剣拳銃火薬類の所持そのものの違法性阻却も問題たりうるが、継続犯であって、かつその用途まで問わないこれら犯罪について違法性の阻却される理由はないと解される)ものの、本件脅迫そのものは、これらの違法性とは切り離されて、刑法三六条の正当防衛のすべての要件を十分に充足し、いまだ全体としての法律秩序に違反するに至らないもの、すなわち実質的違法性の阻却されているものと解するのが相当である。被告人らの本件脅迫は罪とならないと解すべきである。

五、検察官主張の事実関係(公訴事実)のもとにおいて、被告人らの(イ)兇器準備結集集合、(ロ)銃砲刀剣火薬類所持の各罪と(ハ)本件脅迫との間の罪数関係をみるに、(イ)と(ハ)の間には併合罪の関係があると解すべきであり(最決昭和四八年二月八日刑集二七・一・一参照)、また(ロ)と(ハ)の間にも併合罪の関係があると解するのが相当である(最決昭和三八年六月二五日裁判集一四七号五〇三頁参照)。そこで、有罪となった(イ)、(ロ)とは公訴事実を異にする本件脅迫について、被告人三名に対し刑事訴訟法三三六条前段を適用し、いずれも無罪の言渡をなすべきものである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山英巳)

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